《MUMEI》

「あ??だれだよそれ。知らねえよ」


「知らねえの!?空手5段持ってるって噂だぜ!!
…いいから、謝っとけって!!」



慌てるもう1人の先輩に、一度怯んだ西城先輩は、
気を取り直して笑った。



「関係ねえよ。…ってか、こっちが謝って欲しいくらいだぜ。
楽しいコトしてあげようとしただけなのによ、
怪我させられたんだからな」


「おい浩太、やめとけってー」


「お前があの暴力女の何なのか知んねえけどな、
謝りに来いって言っとけ」



私、こんな人が好きだったの…??


こんな人が、椎名くんに―…


…私の―…




「1人で謝りに来たら、許してやってもい―…」


「…調子ばこくなや、ワレ」


「……は??」



私は先輩に1歩、歩み寄った。


先輩も負けじと立ち上がる。


私が、先輩を見下ろす形となった。



「はっ。何語だよ、それ?
…訳わかんね…っ」



私は、先輩の胸倉を掴んだ。


強く、睨みつける。



「わりゃあいい加減にせんと、しばくぞ?
…それ以上ふざけた口ききよったら許さんけえの」



低い声でそう言うと、先輩のシャツから手を離す。


先輩は、力が抜けたようにへなへなと座り込んだ。



…謝ってもらう価値もない。



私は、音楽室を後にした。

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