《MUMEI》

 日和は、この上ない程に穏やかだ。

 だが雛菊の心情はけっして、穏やかと言えるものではなかった。

 刃に映る己の姿を見つめ、娘は溜め息を吐いた。

「何だ? 女みてぇで嫌なのか?」

「別に──どうという訳では無い」

 例えこの男が信頼出来る者であったとしても、自身が少年でなく娘であるなどとは、まだ言えまい。

「お前ってさぁ」

「‥‥何だ」

 間近で顔を覗き込まれ、雛菊は動揺していた。

(馬鹿者‥っ。何故そんなに見るのだ‥っ)

「華郎」

「‥なっ、何だ」

「早めに寝とけよ?」

「な、何だ唐突に‥」

「何か暈出来てっからさ」

「よっ‥余計な世話だっ」

 雛菊は憤慨した。

 草助が慌てて弁解するも、時既に遅し。

 雛菊は完全にお冠である。

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