《MUMEI》
仮面の男
 太陽が下降しだしたころ、王都で最も高い建造物である時計塔の天辺。そこから仮面の男は街を一望していた。
 逆光のなか悠然と立つ姿は勇ましく、強風に外套が揺れる。
 仮面の中の瞳は冷たく、視る者を凍らしてまうまでの極寒。
 街を流れる人は一日をただのうのうと生き、繰り返しの中にとどまり続けていた。縛られ、流されるまま生きるその姿に男は怒りを覚える。

 なぜ這い出そうとしない、なぜ満足できる。
 くだらない問いだった。人がそこから変わろうとしないのは一種の諦めからだ、どうせ頑張っても報われない、実らないなら行動したところで無駄という負の感情の連鎖。
 実行してもいない人間に限って断定する。
 実行した人間は違う。そんな結論には辿り着くことはなく、希望を見る。実らず潰えたとしてもほかの何かが代わりに手に入っているものだから。それは新たな目標だったり、友や、愛だったりする。
 実践した人間は自分の足で立ち、歩いていく。それはいい。
 ならどうやって奴等を歩かせればいい。
言葉を投げかけるか・・・まず伝わらないだろう。そういう人種は頑固で聞き入れようとする気が毛ほどもないから。
人間とは厄介な存在だ。

 「呑気な連中だ、あれなら死んでいるのと大差ない・・・・」
 陰鬱な気分になり胡乱な瞳になってしまう。こうして見ているだけで吐き気さえ覚えてくる。
 「――――――。ああ容易かったさ、動かない的を貫くなんてこと目を瞑っていても出来る芸。面白味に欠けた遊戯だった」
 仮面の男は下を見るのをやめ、空を仰ぐ。皮肉にも空は澄み渡り、伸ばせば手が届きそうな気がした。

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