《MUMEI》

教室に入ると、ざわめきが一瞬消えた、気がした。


私と目が合うと、慌てて逸らす子もいる。

不思議に思いながら席に向かうと、



「みつる!!」



と、瀬田くんが手招きした。



私が瀬田くんの所に行くと、



「おい、また変な噂!!」


「…うわさ??」


「おう!…お前が、昨日3年シメたって!!」


「………はい??」



耳を疑った。


聞き返すと、



「…だから、昨日、お前が西城先輩に広島弁でタンカ切ったって」


「………」



―…昨日のこと、


あのひとの友達が言いふらしたのかな!?


…どうしよう…



「まあでも、お前広島出身じゃねえし、
ただの噂だよな??」


「………」



私は、中2でこっちに来るまで広島にいた。


―…封印してたのに、広島弁。


かっとなって、つい出ちゃったんだ…。

ちなみにママは、本気で怒ると広島弁になる。

―…香織さんも。



「え、なに、マジなの!?」



私の沈黙をどう取ったのか、瀬田くんが真剣な顔で訊いてくる。



「…うそだよ、そんなの。
嘘に決まってるじゃん!!」



否定して、周囲を見渡すと、
こっちの様子を覗っていたのだろう、クラスの殆どの人が慌ててそっぽを向いた。



―…ただ、祥ちゃんだけがこっちを向いたままで、目が合ってしまった。


その横で椎名くんは眠そうにあくびをしている。


その様子に私が思わず微笑むと、
祥ちゃんも視線を椎名くんに向けた。



「だよな〜、お前、ケンカ系のガセネタけっこうあるもんな!!」



納得したように、瀬田くんが笑った。

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