《MUMEI》

資料は、服装検査のものだった。



「…椎名君、髪の毛引っかかってないんだね??」



祥ちゃんが意外そうな顔をする。



「え??―…ああ、これ地毛だから」



笑って答える。



「そうなの!?」


驚いた顔でそう言って、
綺麗な色、と呟く祥ちゃん。


―…私も、染めてると思ってたんだよなあ。


なんだか不思議。


もし事故にあってなかったら、
椎名くんと喋ることもなかった。


…髪が、生まれつき茶色だなんてこと、知らないままで、

椎名くんの優しさも、知らないままだったんだ…。



「…ねえ、椎名君」



資料が出来上がり、先生に提出しようと教室のドアに向かったとき、祥ちゃんが呟いた。



「…どうしたの?」



私が振り返ると、



「椎名君、最近変わったよね。
…何かあったの??」



と、祥ちゃんは上目遣いに私を見た。



「え!?―…いや、べ、別に何もないよ!?」



慌てて言うと、



「…うそ。―…好きな人でも、できた??」



祥ちゃんが私に詰め寄る。

…なんで、そんなに突っ込んでくるの!?



「…かなめ??」


「へ!?」


「…もしかして、かなめのことが好きなの??」



祥ちゃんが、大きな目で私を見据える。


―…一瞬、ばれたのかと思った。



「ちがうよ!!…そんなの、勘違いだよ」



私が言うと、祥ちゃんは1歩後ろに下がった。



「…そう。だったらいいの。
―…今、かなめ傷ついてるから、しばらく誰も好きになれないと思うんだ」



祥ちゃんは、そう言うと私の腕に手を触れた。



「―…椎名君、綺麗な手だね」


「―…え…」


「…あたしね、もっといい子、近くにいると思うの。
―…例えば―…」



そこまで言うと、祥ちゃんは私をじっと見つめた。



「いま、あたしがすごくドキドキしてるの、分かる??」



祥ちゃんはそう言って、微笑んだ。


すごく、綺麗に。



「―…えと、」



私が戸惑っていると、



「ごめん、いきなり。
―…資料、あたしが持って行っとくから」



祥ちゃんはぱっと手を離し、
資料を持って教室を出て行ってしまった。



私は、1人呆然と立ち尽くした。

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