《MUMEI》
仕事と日常
 あの夜からかれこれ2週間過ぎた。

毎日毎日、悠也の残像が頭から離れられない。
 朝起きて、コーヒーを入れてひと息つく瞬間。パンストを穿いて、洋服に着替えた時。化粧を終えて、鏡でチェックする瞬間。
 
 至る日常生活の合間に悠也の細くしなやかな指や香水の香りや淫靡な顔の残像が断片的に蘇って、あたしの鼓動を掻き乱していく。

 こんな筈じゃなかった。とんだ誤算だ。三十過ぎたバツイチがいったいなんだって、こんな恋煩いみたいな葛藤を繰り返しているのだろう。我ながら莫迦みたいだ。

 今抱えている仕事は、大人向けの通販会社で、主任という肩書きでいる。
『主任』といえば、聞こえがいいが上からは、叩かれ、下からは、苦情や文句のフォローをし、きつく注意すれば、疎まれ、慕われる事もない。

 職場では、一緒にランチ出来る相手もなく、ましてや相談や飲みに行く相手もいない。まるで便利屋の孤独な立場だ。
給料は、良くも悪くもない、といったところだろうか。
 離婚した当初は、仕事しか生き甲斐がなくなってしまった。すっかり呆けてしまい、生きる気力が感じられなくなった私に残された最後の場所が職場であった。

 知人の好意で紹介してもらったこの会社に勤めだしてからは、心底仕事に打ち込んだ。

―残業、休日出勤。
 
自分の帰りを待っていてくれる人間を失った私には、好都合だった。朝から寝るまで、仕事に追い詰められ、自分を追い込んでいると、旦那の事を思いださずにいられた。
三年もの間、あたしは、そんな自分の考えを疑う事もなく過ごしてきたのだ。
 
―そう、悠也に出会うほんの少し前迄は・・・。

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