《MUMEI》
自由解放軍
やけに広い。
外から見たこの家に、こんなに広い部屋があったとは思えない。
一体どういう構造になっているのか。
ユウゴとユキナが不思議そうに部屋を見回していると、由井が笑いながら声を掛けた。
「こっち来いよ」
「ああ。あ、お前、怪我は平気なのか?」
「ああ、まあな」
言って、由井は右腕を押さえた。二の腕の辺りから血が出ている。
すぐに若い女性が包帯を持ってきた。
「さっきのあれってなに?」
「見た通りだけど?」
ユキナの質問に由井は肩を竦め、すぐに顔をしかめた。右腕が痛んだのだろう。
「ゲームに参加してるようには見えなかったけど?」
「誰が参加なんかするかよ、くだらねえ」
嘲るように笑みを浮かべると、由井は部屋を見回した。
「ここにいる連中は全員、身近な人がこのくだらねえプロジェクトの犠牲になった人達だ」
「……今までのプロジェクトの?」
由井は頷いた。
「大半は殺された。無惨にな」
「じゃ、中には生き延びた人も?」
「ああ。数人な」
「生き延びたなら、なんでこんな?」
「あれは、死んだも同然だ」
突然、後ろから声がした。
二人が振り向くと、白髪混じりの男性が目を怒らせて立っていた。
「どういう意味ですか?だって、生き延びた人には賞品とかいろいろ特典があるんですよね?」
「そんなもんあっても意味なんかない。
君たちは、プロジェクトが終わった後の街や生き延びた参加者のその後を見たことあるか?」
ユウゴとユキナは同時に首を振った。すると彼は哀しそうにため息をついた。
「ひどいもんさ。俺の姪っ子なんだが、何を聞いても反応がない。口もきかない。なにも見ていない。ずっと病院のベッドの上だ。あの年、生中継の映像にな、姪っ子が映ったときがあったんだ。
その時、あの子は恋人と一緒だった。
競技は持久走だったな。
必死に走る二人にな、突然鎌が飛んできたんだ。
次の瞬間、恋人の頭があの子の足元に転がっていた。そして、走っていたあの子はその頭を蹴り飛ばしたんだ。あの子は半狂乱になっていたよ。泣いて、叫んで。
生き延びたのが奇跡のようだったが、今思うとあの時死んだほうがよかったのかもしれん。可哀相に」
「街は、どうなってるんですか?」
「ああ、普通に人が暮らしてるよ。ただし、そのほとんどが外国人だがね」
「外国人?」
彼は頷いた。
「同じ街だが、まったく違う街になってしまったんだ。他の街も同じようなもんだ」
近くで話を聞いていた数人が頷いた。
「俺達はあるサイトで知り合った仲間なんだ。プロジェクトをやめさせる為に戦ってる。他にも全国に仲間がいるんだ」
「つまり、あれだ。由井たちは自由解放軍ってとこだ」
すると、由井は軽く笑って頷いた。
「そんなもんだな」
一緒になって笑うユウゴをユキナは呆れた表情で見ている。
「なんだよ?」
「あんた、そうやって団体の名前つけるの好きだね。しかもセンスないし」
「うるせえ、ほっとけよ」
「なんだよ、お前ら仲いいな。ひょっとして付き合ってる?」
「馬鹿言うな。こんな女お断りだっつの。そんなことより、じゃあ、お前の知り合いもなのか?」
「ああ、妹が、な」
妹。ユウゴは直接あったことはないが、話には聞いたことがある。
その内容までは覚えていないが、随分仲のいい兄妹だと思った気がする。そういえば、ここ一年ほどはそんな話も聞いていない。
しかし、普段から明るい由井にそんなことが起こっていたとは気付かなかった。
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