《MUMEI》

 雛菊が絶句したのは、そこにあるべき人物がいなかったからである。

「‥‥‥‥‥‥‥」

(居ない‥?)

「ふぅー、なかなかいい湯だなぁ」

「‥!!」

 娘は素早く視線を横に向ける。

「き、貴様‥!」

 雛菊は忘れていたのだ。

 この男の舜速を。

 どうやら刀捌きだけではないらしい。

 この男は、動き自体が速いのだ。

 普段は分かり得ないが。

「ん、お前怪我でもしてたのか? そんなの巻いて──」

「煩い、黙っておれ」

 雛菊は草助に背を向けて、何とか誤魔化そうと必死だ。

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