《MUMEI》

梟の身をまた抱え上げると、殺鷹は近くあった建物の中へ
高い靴音を立てながら階段を上り、先にある戸を開けば
「……お帰り。殺鷹」
一人の少女の出迎え
その少女の腕には大量の黒花が抱えられていて
殺鷹はソレを一輪手に取ると、そうする事が互いが交わす挨拶なのか花弁へと口付けてまた少女の腕の中へと戻した
「帰ったよ、雲雀(ひばり)。私の留守中、何も無かったかな?」
「なかった」
「そうか。それは何よりだ」
「でも、お腹はすいた」
「ああ。もう夕食時か。待っていなさい、すぐに作るから」
梟をソファの上へと横たえると、そこに放ってあったエプロンを身に着け殺鷹は台所へ
手際よく料理を始める殺鷹を横眼に
少女・雲雀は梟の側へ
「……平凡な顔」
梟の顔をまじまじ眺めながらつまらなそうに呟いて
暫く眺める事を続けていた雲雀へ
食事の支度が出来たと殺鷹の声 
「雲雀、出来たからこちらへきて食べなさい」
「うん」
雲雀が食卓へ着いたのを確認し、殺鷹は彼女へと茶を出してやる
見れば雲雀は心成しか浮かない顔で
食事に手を動かしながら、どうしたのかを問う
「……別に。唯、(烏)の事、思い出してただけ」
殺鷹と同じに食事に手を動かしながら雲雀は徐に呟く
「懐かしい名だ。最初の黒花の鳥、だったね」
「そう。梟に殺された、私の鳥」
その時を思い出しているのか、雲雀の声に僅か混ざる震え
身すら震わせ杯めてしまった彼女を抱きしめてやりながら
「彼が憎いかい?」
短く、尋ねる
「嫌い、大嫌い」
「だが、今の私達には彼が必要だ」
嫌なのだと何度も首を横へ振る雲雀
だが殺鷹の柔らかな声で僅かに落着きを取り戻し
「解ってる。私、あの女も嫌いだから。あの女を殺すためなら少しの間我慢、する。」
その為に梟を連れて来たのだと小声での言葉
「いい子だね。雲雀」
顔を伏せてしまう雲雀の頭を撫でてやり、そして殺鷹は徐に席を立つ
食事も途中に何所へ行くのかとの雲雀からの問いに
「白鷺の所だよ。少しばかり聞きたい事があってね」
相も変わらず笑みを浮かべて向ける殺鷹
僅かながら、雲雀の表情に曇りが見え始める
「そんな顔をするものじゃないよ。心配無い、唯話をしに行くだけだ」
「解ってる」
「梟をよろしく頼むよ。ここに連れてくる為とはいえ、手酷く傷つけてしまったからね」
「行って、らっしゃい。気を付けて」
「雲雀もね」
適当に手を振って返すと殺鷹はまた外へ
すっかり白の花弁に埋めつくされた街中を足早に歩きながら
殺鷹が向かったのは
「失礼。白鷺殿は御在宅かな?」
白鷺の邸
門扉を守る門衛へと尋ねれば
何故かあっさりと屋内へと通された
常日頃かあまり芳しくない間柄だというのに
その容易さに僅かに警戒しながら殺鷹は奥へ
「やはり、来ましたか。殺鷹」
白い、一点の穢れもない純白の部屋の中に白鷺の姿はあって
現れた殺鷹へ、あからさまに嫌悪の表情を浮かべていた
「久方振りだというのに、もう少し穏やかな顔で出迎えてはくれないものかな、君は」
「何故私が貴方を出迎えなければならないのです?ここは、貴方の様な穢れた者が脚を踏み入れていい場所ではないのですよ」
言葉通り、汚らしいモノを見る様な顔を向けられ
だが殺鷹はさして気に掛けることもせず
「用件が済んだらすぐに帰るよ」
との短い返答
今すぐに帰る様子の無い殺鷹に、白鷺は深々しい溜息をつく
「ならば、早くその用件とやら、話して下さい」
嫌悪の表情は変わらず、先の言葉を急かす白鷺に
殺鷹も溜息をつきながら、だがすぐに話す事を始める
「(落日)がそんなに怖いかい?君は」
その言葉に白鷺の動きがピタリと止まり
白鷺はゆるり顔を殺鷹へと向けながら
「殺鷹、あなた、その言葉を……」
「たとえこの世を白花で覆い尽くしたとしても、その日は必ずやってくる。こればかりは、どんなに策を講じようが回避する事は不可能だ」
「そ、そんな事は……、あの男さえ殺してしまえばそんな事には……」
「黒花は咲く事はなく、世界は白花に満たされる、かな?」
白鷺の言葉を先読みし、言ってやれば
どうやらその通りだったのか口を噤む
「それは安易な考えだよ、白鷺。キミが考える程、世界は単純にはできてない」

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