《MUMEI》
・・・・
 恐怖に飲まれ、がたがたと震える少年が可哀想に思えたからだった。
 「嫌なことを思い出させちまって悪かったな、もうそれぐらいでいいよ」
 「・・・・は、はい。お役に立てず申し訳ありません」
 頭を下げるアランに気にすることない、と慰める。
 圧倒的な力の差を目の当たりにしたとき、感じることは二つしかない。一つは彼のように恐怖に身を震わせるもの。一つは己よりも強い存在に出会えたことへの喜びと昂り。
 後者は多くは存在しないだろう。
 「それでは自分はこれで」
 先ほどより深く頭を下げ、踵を返して歩き出す。アランが歩き出して少しして思い出したエドが声を上げる。
 「最後に一つだけいいか、仮面の男は道具も使わずに屋根へ飛んだんだよな」
 エドの声に振り返ったアランはそれを肯定すると、つぎこそ街に消えていった。

 道具も無しに屋根へ跳躍、それでエドは確信した。
 「男は契約者・・・もしくは・・・どちらにしても危険な存在だ、野放しにはできないな」
 街を進むエドの表情は険しく、事件の深刻性を表していた。
 「あの兵士の話ではおそらく仮面の男は魔法を使っていない、契約精霊の属性もわからないいま、男を追うのは賢明じゃない」
 誘われた当初はやる気でなかったカイルも話を聞いているうちに仮面の男がどれほど危険かを知り真剣に意見を出していた。
 見送るというカイルの意見に賛成するエド。
 「そうだな、まずは男が助けた罪人か。急がば回れっていうしな、仮面の男と何かの関係を持っているかもしれない」
 「そうと決まれば急いだほうがいい、ここを出られたらいろいろと厄介だ、ここは手分けして捜すぞ」
 カイルは曲がり角でエドと反対方向へと曲がり歩いて行く。背中越しに、
 「合流は夕方、噴水前でいいな」
 「あぁ、それじゃあ後でな」
 エドも罪人を見つけるためざわめく街に飲まれていった。

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