《MUMEI》

おれが駅についても、蓬田はなかなか現れなかった。


電車が出発する間際になってようやく現れた蓬田は、



「お、おおおおはよ!!」



と、やたら『お』が多い挨拶をしてきた。



「おう、おはよう」



おれも答える。


おれがボックス席に腰掛けても、蓬田は座ろうとしない。



「…どーした??座れば?」



どうせ、この時間の電車は空いてる。
おれが促すと、



「う、ううん!立っとく!!―…ほら、体力つけなきゃ!!」



と蓬田は言って、窓の外に顔を向けた。




…やっぱ、怒ってんのかな―…??


口はきいてくれるけど、ぎこちないし…



「なあ、蓬田、昨日は―…」



おれが謝ろうと口を開くと、



「あ!…そうだ!!
あっちの車両の方が立ちやすそうだから、
あっちに移るね!!」



蓬田は、おれの言葉を遮るようにそう言って、
隣の車両に移ってしまった。



…何なんだよ、一体。

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