《MUMEI》

その日は、少し雨が降ってて、私は中学2年生。


冬のことだった。


引っ越してきたばかりで、時期はずれの転校生の私。
友達もなかなかできなくて、


1人で帰ってるときだった。



川原の道を歩いてる時、


何か大きな四角いものが流れてるのに気付いて、
私は不思議に思って川岸に降りてみた。


近くに行くと、流れてるのは、
大きな段ボール箱だと分かった。



近づいてくるその箱を、私は持っていた傘で引き寄せた。



中を開けると―…




「子犬が、6匹。…ほとんど、瀕死の状態で入れられてたの」



それから、私は必死でその段ボール箱を持ってパパのところに走った。



パパなら何とかしてくれる、って思って。



パパは、箱の中から子犬を1匹取り出して、



「…残念だけど、この1匹しか助けられない。
―…ほかの犬は、もう―…」



と、悲しそうな目で言った。



私も、頷くしかなかった。



―…ほんとうは最初から、薄々わかってた。


もう、助かる見込みはないってこと。



1匹でも助けられて、良かったとも思った。


―…でも、



「…でもね、悔しかったんだ。
人間が、身勝手に小さな命を奪ったことも、
…私が助けてあげられなかったことも。
すごく、悔しかった。―…だから、」



だから、私は救う人になりたい、って




…獣医になろう、って決めたんだ。

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