《MUMEI》
手紙 〈おれ〉
「だからね、強く育つように、って…
この子の名前、『ゴジラ』にしたの」



すごく、強そうでしょう??



そう言って、蓬田は笑った。



「…そっか」



おれも、微笑んで頷いた。



―…そっか、ゴジラって名前には、
そういう意味があったんだな。



「…でもね、パパは私が獣医になるの、反対してるんだ」



蓬田が、淋しそうに呟いた。



「…なんで??」



おれが訊くと、



「パパの真似事だけでやっていけるような仕事じゃない、
そんなに甘いもんじゃない、って…」


「………」


「それで、去年ケンカしちゃって、
…それからほとんど顔も合わせてないんだ。
―…やっぱり、ただの憧れなのかなあ…」



蓬田が弱弱しく笑って俯く。



「…違うだろう」



おれが言うと、蓬田は、顔を上げた。

おれは続ける。



「お前は、お前の意志で獣医になろうって決めたんだ。
…父ちゃんの真似事なんかじゃ、ないだろう」


「………」


「自分で、決めたんだろう?」



おれがそう言って微笑むと、
蓬田の目に涙が浮かんだ。



「……うん」



必死に涙をこらえながら、頷く。



「…なら、進めばいい」


「…うん」


「自分を、信じればいい」


「うん…!!」



力強く頷く蓬田。



ただの憧れなんかに、あんなに必死にはなれない。



「…父ちゃんに、言ってやろうぜ」


「…え…??」


「―…なかなか帰ってこないだろ、お前の父ちゃん。
…せっかく生きてるのに、会わないなんてもったいねえよ」



な、と言っておれは笑う。



戸惑いつつも、頷く蓬田。



「よし、…なんか書くもん…」



おれは、鞄からシャーペンとルーズリーフを取り出し、蓬田に手渡した。



「…これに、思ってること全部書け!!」

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