《MUMEI》

 空き家に戻る途中、雛菊は風呂での一件にまだ青筋を立てていた。

「入って来るなとあれ程言ったというのに‥」

 その台詞に、草助は思わず笑い出す。

「男同士だろ?」

「そう‥だが‥」

「ん? やっぱ怪我か何かしてんのか?」

「そっ‥そうでは無いっ」

 返答に詰まる雛菊。

 自分は男ではない。

 女だ。

 気付かれては困るが、やはりやりにくい、と雛菊は思う。

 いっその事、この男にだけ明かしてしまおうか。

 草助の背を見つめつつ、雛菊はそんな事を思っていた。

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