《MUMEI》
全裸
夜。
まきはねぐらに連れて行かれた。山賊のお頭と二人きりでは、生きた心地がしない。
お頭は、まきの荷物の中にあった華やかな着物を差し出した。
「これはおまえのか?」
「はい」
怯えた表情がそそる。お頭は欲望の塊と化した。
「名前なんてんだ。俺は義六」
「よしろく様」
「様はいらねえ。おまえは?」
まきは躊躇したが、嘘をついてばれたら怖い。
「まきと言います」
「まき。いい名だ」
義六はきさくに話した。
「まき。男もんの着物はいらねえだろ。こっちに着替えな」
着替える…。
まきは緊迫した。着替えるということは、山賊の前で全裸になるということだ。それはあまりにも危険過ぎる。
まきが硬直していると、義六は笑った。
「その着物を俺にくれ。とっかえこだ。女もんもらったってしょうがねえからな」
乱暴な中にも優しさのある話し方だ。しかしいつ狼に変身するかわからない。
「では、着替えますから、向こうを見ててくださいますか?」
「そんなじろじろ見やしねえよ。さっさと着替えちまいな」
まきは警戒しながら頭を下げた。
「では、失礼します」
まきは男ものの着物を脱いだ。彼女が全裸になった瞬間に義六は押し倒した。
「きゃあああ!」
義六はあっさり上に乗っかる。まきは義六の肩を両手で押した。
「やめてください!」
「諦めろ」
「諦めません!」
まきの激しい抵抗にも義六は動じない。両手首を力で押さえ込むと、顔を近づけて迫った。
「まき。俺の妻になれ」
「嫌です!」まきは下から睨んだ。
「こうなったら諦めるもんだぞ」
「諦めません。やめてください!」
義六は凄んだ。
「おい。おまえ命だけは取らないでと言ったよな?」
まきは答えない。
「命だけは許してってことは、体は諦めるってことだろ?」
「違います」まきは即答した。
「違うのか?」義六は短く笑った。
「お頭様。許してください。お願いします」
「強情だなあ。落としがいがある」
義六はまきの胸を触った。
「やめてください」
今度はまきの両脚の間に自分の脚を入れ、膝でいちばん大切なところを刺激する。
「ちょっ…やめてください」
断固拒絶するまきに、義六は思わず聞いた。
「惚れた男がいるのか?」
義六の問いに夫となるべき人の顔を思い浮かべたのか、まきは瞳を閉じ、涙を流した。
義六は囁いた。
「泣くな。あすの朝、解放してやるから」
「え?」
まきは目を丸くして驚いた。義六は裸のまきに背を向けて、部屋を出ていこうとする。
「お頭様…」
愛する人だけに捧げたいこの体。まきは奇跡的に守ることができた。
その頃。
山賊討伐隊は山賊が出るという山道の近くまで来ていた。
総勢五十人。麻美も武装して、凛々しく列に加わっていた。
隊長のみが馬に乗り、あとは皆歩きだ。
麻美は隊長に小声で告げた。
「列の中に遊び半分の者がいます。油断大敵です。一度引き締めては?」
「あまりきつく言っても逆効果だ。相手は山賊。戦にもならんよ」
山賊は侮れない。麻美は経験から知っていた。
「隊長。最近の話なんですが、私は危うく山賊に殺されるところでした」
「麻美がか?」
「はい」
「戯れを…おととと」
いきなり馬が前脚を上げ、隊長は背中から地面に振り落とされた。
「あっ…」
思いきり腰と背中を打って立てない。
「隊長!」
「しまった…」
出陣のときに不吉だ。皆に動揺が走った。
「きょうはやめますか?」
「ばかな!」麻美が怒鳴った。
「だれがばかだ!」
突っかかる兵士の一人に、隊長が言った。
「おまえは私を連れて帰ってくれ」
「はっ」
「あと萬屋はいるか?」
「ここにおります」
年配の男が出てきた。
「萬屋は麻美の片腕となって麻美を守ってくれないか」
「この萬屋。命を盾にしてでも麻美殿をお守りいたします」
なぜだか言葉が空虚に響く。
「麻美。指揮を頼む」
「…わかりました」

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