《MUMEI》

思いがけない御言葉に、

僕は耳を疑いました。

「‥今‥何と‥?」

「吸っていいよ、って」

「で、ですがアンリ様──」

それをすれば、僕が契約を破る事になり兼ねません。

「大丈夫、痛くはないから」

「いえ、あの‥」

動揺する僕に、アンリ様はにっこりとされて、

「命令だよ?」

歌うように仰られました。

「‥宜しいのですか‥?」

「うん、いいよ」

僕はアンリ様を抱き寄せて、頬に手を添えると、首筋に牙を当てました。

「───────」

口の中に流れ込んで来るそれは、この上無く甘い味がしました──。

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