《MUMEI》

「ただいま……。」


だいぶ早めの帰宅。


家の中は静まり返っている。


足音を立てるのも、申し訳ないくらいに。


俺は、ひとまず乾いた喉を潤そうと、
リビングへ向かった。


そしてリビングへ入った瞬間、
凍り付いた。


心臓がトクンと、
激しく波打つのが分かる。


何故なら……。


父さんがソファの側に立っていたから。


これ以上ないくらい、無機質な顔をして。


父さんの後ろには、
俺が蓮翔ちゃんの試合を観に来ているテレビの場面が写し出されていた。


やはり……知ってしまったのだ。


だから……。


こんなにも怒っているのか。


父さんは、その顔のままゆっくりと俺に近付いてきた。


そして、いきなり歩調を速めると、
物凄い形相に一変させる。


俺は、覚悟を決めて、
その場に立っていた。


しっかりと地面を踏み締めて。


父さんの顔を見据えて。


何が起ころうとも構わない。








例え、殺されようとも。

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