《MUMEI》 「ねぇ──」 「──はい」 僕はまだ、アンリ様を抱き締めたままでした。 放したく無かったんです。 それだけを考えていたので── 「リュート」 アンリ様が苦笑しながら僕の名を御呼びになられたのにも、気付きませんでした。 「リュート、聞こえる‥?」 「‥!」 やっと我に返った時には、アンリ様がきょとんとされて僕を見つめてらっしゃいました。 「リュート‥?」 「申し訳ございません、‥失礼を致しました‥」 アンリ様から手を離し、只頭を下げるしかありません。 クスリ、と笑い声がしたのはその直後でした。 「謝らなくていいよ」 前へ |次へ |
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