《MUMEI》
過去の記憶2
「しばらくは持ち直したけど、やっぱり数が違った。だんだん押され始めて・・先輩達が無理やり空けた道を子供達と一緒に逃げた。でも・・逃げた先が最悪だった・・違うな・・どこに逃げても結局はそうなったのかもしれない。つまり、追い詰められたんだ。逃げることもできなくて・・ただ無駄な抵抗をしていただけに過ぎない。子供達だけじゃなく、私達、騎士もどんどん殺されていった・・
そんなときに、すぐ近くで子供が魔物に殺されそうになったのが見えて・・無我夢中でかばおうとしたんだ。私もボロボロだったのにさ・・違う・・護ろうとしたのは自分の心なのかな・・失いたくなかったから・・
私にできたのは覆いかぶさることだけだった・・その私と子供を突き飛ばして・・ロアが、あの鎧の持ち主が犠牲になったんだ・・私の目の前で・・さ。その後どのくらい時間が経ったのかは覚えてない・・ただ悔しくて、悲しくて、魔物が憎くて剣を振るってたから・・・なんで生き残れたのかはわからなかった・・だけど私は生きていたんだ・・護れた子供は・・2人だけで・・私と一緒に子供達を護ってた騎士や自警団の人たち・・18人のうち15人が死んでいた。」
声が泣きそうに震えていた。狩月にはどういえばよいのか分からずただ、沈黙していた。
「魔物の撃退は成功したけど・・街の被害は甚大だった。死者は・・7万8257人。4人に一人くらいの割合で死んでしまってた。教会の聖職者も何人か死んじゃって・・それが問題になった。街の人間よりも聖職者を護るのが騎士の務めだろうってね。結果、当時の団長は斬首されて・・副団長も騎士としての資格を永久に失ったってわけ。」
振り返り、君はどう思う?そう問いかける彩詩。長い前髪に隠れて表情は見えない。何かを言わなければならない・・そう思ってつっかえながら言葉を発する。
「無責任なことかもしれません、でも・・俺は間違ってるとは・・思えません。そのロット団長って人がとった行動も・・教会側から見れば間違ってるのかもしれないけど・・でも正しいと思います。偉そうなことを言いますけど・・ヒトが護ろうとするものって一人一人違うと思うんです。だから・・うまくは言えないけど・・俺はその人のことを知らないけど・・立派な人だと思います。」
自分の言葉のつたなさに悲しくなったが、それでも伝えようと言葉にした。
「護りたいものは一人一人違う・・か。そうだね。団長は自分の信じる道を進めって言ってたけど・・あれは団長の信じた道なんだろうな・・ありがとう狩月。」
そう言った彩詩の頬には一筋の涙。視線を彩詩からそらし、言葉を続けようと口を開けたときだった・・

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