《MUMEI》

「ぁ‥ごめん、びっくりしたよね」

近付けていた御顔を慌てて引くと、アンリ様は俯かれて、蜜のような色の髪が、その御方の表情を隠してしまいました。

「アンリ様、どうぞ御顔を──」

「ごめんね‥?」

「いえ、貴女様は何も──」

只、僕はまだ慣れていないんです。

夜、自分から近付く事はあっても、人間の方から僕に近付いて来る事はありませんでした。

ですから、唐突に目の前に居られると‥どうしても動悸がしてしまって──‥。

愛している御方であれば尚更。

動悸が、止まらなくなるんです。

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