《MUMEI》

山賊討伐隊は、麻美隊長を先頭に山道を進んだ。
麻美の傍らにはぴったりと萬屋がつく。
列の中央には、先ほどから欠伸ばかりしている緊張感のない男がいた。
麻美は萬屋に聞いた。
「あの男はどういう奴だ。やる気がないようだが」
「広野ですか?」
「ひろのと言うのか」
「はい。腕は立ちますが、少々荒っぽい性格でして」
麻美は呆れ顔で呟いた。
「団結を乱す奴を特別扱いすると、士気に関わる」
広野はまた「ぷわあ」と欠伸をして目をこすり、「ねみ」と言っては両手を上げて伸びをした。
麻美は立ち止まると突然怒鳴った。
「全員止まれ!」
皆驚いて止まった。
「隊長、どうされました?」
目を丸くして聞く萬屋を無視して、麻美は列の中央まで歩き、広野を睨んだ。
「貴様、やる気がないなら帰れ!」
「はあ?」
舐めた顔をする広野に、麻美は激怒した。
「女だと思って甘く見ていると痛い目に遭うぞ」
しかし広野は仲間二人を見て嘲笑を浮かべた。
「何か言ってるよこの子。やっちゃう?」
麻美は剣に手をかけた。
「何だと貴様」
萬屋が止める。
「隊長、それはまずいです。広野もいい加減にしねえか」
だが、広野の態度は改まらない。
「お嬢ちゃん。先に言っとくけど、俺は強いよ」
麻美の目がすわった。
「ならば勝負するか?」
「何?」
一触即発。皆緊迫した。
麻美が真剣を抜く。広野も刀を抜いた。
「隊長」萬屋は額に汗を滲ませた。
広野が刀を振り上げる。その瞬間広野の手首を刃先で突く。
「あああ!」
刀を落とした広野の喉もとに麻美は剣を当てがう。
勝負あったというより実力は格段の差だった。
「参ったのか?」
睨む麻美に震える広野。
「反逆するならここで仕留める」
麻美は剣を引く構えを見せた。
「ま…参った」
麻美は剣を下ろすと、仲間のことも睨みつけ、先頭に戻った。
再び山道を進んだが、空気は完全に白けてしまった。
隊長が女だからと舐められては、指揮に影響する。
そう思い実力を示したが、逆効果だったと麻美は反省した。
萬屋が口を開いた。
「隊長。もうすぐ山賊が出没する場所へ差しかかります。しかし、この軍を見たら出てきません」
「わかってる」
麻美は手で合図し、今度は静かに進軍を止めた。
麻美は鎧を解き、萬屋に言った。
「私が囮になる」
「囮?」
「私が一人で歩けば、山賊は私を襲うだろう」
萬屋は膝を叩いて明るい笑顔。
「名案です。これは隊長にしかできません」
「山賊が出てきたら一網打尽にするのだ」
「わかりました。隊長を危険な目には遭わせません」
麻美は少し心配になり、忠実な萬屋を優しい表情で見た。
「いくらの私でも、一人では無理だ。頼んだぞ」
「ははっ!」萬屋は最敬礼した。
麻美は剣を持っているものの、山賊から見たら格好な獲物だ。
こんな美少女を見逃すはずがない。
案の定、五人の山賊らしき男が出てきた。
(来たか)
麻美はわざと怯えた。
「いや…」
「どこ行くのお嬢さん」
「一人?」
「あっ!」
お互いに気づいた。
「裸の天使!」
「本当だ!」
麻美は身構えた。あのとき川の近くで遭遇した山賊どもだ。
「お頭!」
お頭と呼ばれた男が出てきた。
「この前話していた裸の天使ですよ」
二度も裸の天使と呼ばれ、麻美は赤面した。
「ほう」お頭も目を見張った。「なるほどこれは上玉だ」
「黙れ!」麻美は剣に手をかける。
「大丈夫ですよ、こいつ滅茶苦茶弱いから」
「何!」麻美は本気で怒った。
「お、また裸にされたいか?」
山賊どもも構えた。
「あ、そういえばおまえ、よく無事だったなあ」
「あの怪物に食べられなかったのか?」
「怪物?」
義六が子分に聞いた瞬間に、萬屋を始め討伐隊が一斉に襲いかかった。
「しまった罠だ」
遅かった。あっという間に一網打尽だ。
「隊長!」
「何だ萬屋…」
麻美は、まきを見た。
「!」

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