《MUMEI》

「こうしてお散歩するのって久し振り──」

「教会へ行って以来ですよね」

「うん」

「──アンリ様は‥あまり御邸から出られなかったのですか」

尋ねると、アンリ様は少し悲しげに頷かれました。

「だからね、リュートと一緒にお散歩するのが凄く楽しいの」

そう仰られて僕の方を向かれた時には、もう悲しげな表情は無くなっていて、軟らかな笑顔が花のように咲いていました。

「ねぇ、あっちの方にも行ってみない?」

「向こうは──‥」

「ほらっ、行こう」

アンリ様は僕の手を引いて、小走りに駆け出しました。

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