《MUMEI》

「…なるほどな…裏切りか…」

「ハハッ!そうです!良くできました!その通りですよ。私達は甘いあなたに嫌気がさしましてねぇ!この通り、誘ったら大半の方が来てくれましたよ?」

「…残りの者達は?」

「さぁ?とりあえず1ヶ月は動けない程度ですよ?なんてことないでしょう?」

その言葉を紡ぐ喜多の顔には嫌な笑みが張り付けられている。

「…外道が…!!」

「今更ですね…だからあなたは甘い。どうです?あなたの甘さがこの状況を生み出した感想は?」

サラサラと機械のように言葉を並べる喜多は見下すような笑みが張り付いたままだった。

「………っ!」

「何も言えませんかか…失望しましたよ貴方には…もっと早く行動するべきでしたかねぇ…まぁ死鬼君を捕らえられただけでも良しとしますか」

そう言いながら喜多は死鬼の顔を蹴る。何度でも、まるで終わらない嵐のように、激しく、激しく、死鬼の顔を蹴った。

しばらくして、蹴るのをやめた喜多は声を荒げながら言った。

「ハハッ!!いやあ、あの時の威勢はどこへ行ったやら!!見てましたよ死鬼君!先程、君が車から子猫を助けていたのを!!凄かったですねぇ!?車をあのように扱うなんて!今の君が嘘のようだ!」

「………!!」

それまで黙って蹴られていた死鬼が表情を変える。

「おやあ?見られたくなかったんですか?それは無理というものですねぇ、あれだけの騒ぎですからね、広がって当たり前。そうでしょう?」

喜多はわざとらしく肩をすくめてみせる。

そして、喜多は笑いながら言葉を死鬼に向け放つ。

「その騒ぎで君が助けた子猫、無傷で助かりましたよねぇ?」

ぞわり、と死鬼の背に嫌な予感と感覚が走る。
本能的に死鬼は悟った。この言葉は聞いてはいけないと、それは隣にいる医十印も感じていた。喜多の言葉をこれ以上聞かせたら

"何か起こしてはいけないことが起こると"

それでも───喜多は止まらない、まるで話すことが義務とでもいうかのように、死鬼に最悪の言葉を叩きつけた。


「ほら…僕達は君に傷を負わされて、あの子猫は無傷で助かっちゃったら…その…何か不公平じゃないですか?ですからあなたの代わりに私達が子猫をその…"殺しておきましたから!"」


ジグリと死鬼の胸に何かが響く。


喜多が何か合図をすると廃屋の2階から白い固まりが落ちてきた。

その固まりには赤いシミが広がっていた。

白い子猫としての面影があまり残っていない。今ではただの屍としてのみ存在している。


ズキリと頭のどこかで死鬼をひっかくような痛みが走る。

死鬼はかすれるような声で呻いた。

「…どうして…!!」

「決まっているじゃないですか…"楽しいから"ですよ。私はね、人が絶望にゆがんだ顔を見るのが楽しくて仕方がない!絶対に助からないような状況下で相手を見下し、人の諦めたような終わってしまったような…そんな表情が大好きなんです!」

パチン

音にするならそんな乾いた音が季紫であり死鬼でもある男の中に静かに響き渡った。



─────場の空気は喜多とその仲間以外を除き全員が気づいた。



"ドロドロとした飲み込まれそうな空気になった"と"言ってはいけないこと"を言ってはいけない奴に言ってしまったんだと──────

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