《MUMEI》

ゴキのことがあってから水分は持ち歩くようにした。
靴箱の頃、いや、斎藤アラタに出会った頃から何か狂い始めている。


前の席を見る、空席だ。


 ―――お前なのか?

休みで良かった、本人が居たら叫んでしまいそう。

教師の声をBGMに教科書をめくる。





   ヒトゴロシ


調度開いた頁の指先に赤い文字。
定規で書かれている、

 鼓動。


  違う、違う、違う、

俺は、席を離れた

廊下の端にうずくまる。
「誰かが俺を知っている 俺がしたことも……?」

「樹、俺だけ見ろ、大丈夫。何もしてない。何も……」
アヅサの声。いつものトーンなのに優しく聞こえた。

  血、
    血、
    血、
        赤い

      誰?

「樹!大丈夫?」
わかな、わかな、わかなだ
「わかな……」
柔らかな肩に抱き着く

子供より子供のように

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