《MUMEI》
始めたのは誰?
「今日しか使わないって?」
ユキナがそっと口を開いた。
 おそらくこの冷めた空気をどうにかしたいのだろう。
しかし、さっきの少年たちは鋭い目でユキナを睨んできた。
 それに気付いたユキナはできるだけ彼らを見ないように、体の向きを変える。
「ほかにもいくつか部屋を用意してある。悪いな、あまり話せない」
ユウゴとユキナは小さく頷いた。
 彼らの仲間でない以上、活動に関して詮索をするのは得策ではない。
ユウゴは話を変えることにした。
「なんでこんなことしてんだろうな?この国のお偉いさんは」
「さあな。それはみんな知りたいだろうな」
「たしか、プロジェクトの概要には、平和に慣れすぎた国民の運動能力を向上、危機感を持たせるためって書いてあった」
「……わざわざ調べたのか?」
「うん。国の一般サイトで」
「でも、おかしいだろ。運動能力向上と危機感を持つために殺されるなんて、たまんねえ」
ユウゴの言葉に由井は頷く。
「しかも、プロジェクト終了後の街に外人が住むってのも、なあ?」
「意味わかんないよね」
「……誰が始めたんだろうな?このプロジェクト」
おもむろに由井が聞いて来た。
「やっぱ、天皇じゃん?」
「天皇、ねぇ。噂じゃ、議員たちの操り人形らしいぜ?」
「マジで?」
それは初耳だ。
いつもプロジェクト開始前には天皇が開催地を発表し、なにやら演説もしているので、てっきり天皇が全ての元凶だと思っていた。
「じゃあ、誰が?」
「さあ。大臣だっていう奴もいれば、どっかの国のお偉いさんだっていう奴もいるし。ま、あくまで噂だ。実際のところ、よくわかんねえんだよ。誰もな」
 確かに言われてみれば、今までのプロジェクトの記録はサイトなどに載っていても、誰の提案で始められたものなのか書かれたものは何もない。
 何故、今までそこに疑問を持たなかったのか不思議だ。所詮、他人事という思いもあったのかもしれない。

 それから三人は他愛もない話を続けた。
「由井さん。そろそろ」
話の途中、男が呼びに来た。
「ああ。行くか」
そう言って立ち上がり、由井はユウゴたちに謝った。
「今からちょっと見回り行かなきゃいけねんだ。すぐ戻ってくるから、適当にくつろいでくれ」
「あ、ああ」
 正直、この場に由井がいなくなるのはひどく不安だ。
なにせ、ユウゴ達は明らかに招かれざる客。
 もし、由井のいない間に襲われでもしたら……
 そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。
由井は笑って言った。
「大丈夫だって。いくらうちの奴が血の気が多くて、疑い深い連中だとしても、いきなり襲うなんて真似はしねえよ。なあ?」
 由井は確認するように奥にたむろしている、さっきの少年たちに声を掛けた。
 彼らは「当たり前だ」と口々に言いながら頷いた。
「な?じゃ、行ってくるわ」
由井は軽く手を振り、数人を引き連れて出て行った。

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