《MUMEI》

「ぇ‥?」

 華郎という名が本当の名では無い、目の前の小侍はそう言った。

「っと──‥どういう事だ?」

「言った通りだ」

「つまり、仮名って訳か?」

「ぁぁ、そうだ」

「じゃあ‥本当の名前は──」

「『雛菊』」

「雛菊‥? 雛‥‥‥って女ぁ!?」

 草助があまりに素頓狂な声を出した為、雛菊は慌てて彼を物陰に連れ込んだ。

「馬鹿者っ、声がでかいわっ」

「ぃ、いや、だって──‥」

 草助にはすぐには飲込めないらしい。

 目の前の侍娘を見つめたまま、暫し固まっていた。

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