《MUMEI》

「前の事‥と──仰いますと?」

「私、前に──刺を触って怪我したでしょ?」

「──あれは僕が‥」

「あの時ね、私──ちょっとだけ恐かったんだ」

「──僕の事‥ですよね」

「ううん、どうすればいいのか分からなかったから──」

「何故‥です‥?」

「だって──、リュートが血を欲しがってるのに、私‥」

「アンリ様が御気になさる事はございません」

「‥リュート‥?」

「『報酬』は夜だけ、と決めたのは僕ですから」

「でもね、本当はあの時、あげたかったの。でも出来なくて──‥。だから教会に行った時、あげられて良かった」

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