《MUMEI》

クッキーを作る時──思い出す事があります。

アンリ様に初めて作って差し上げた御菓子が、このクッキーでした。

それまで御菓子など作った事の全く無かった僕は、レシピをひたすら飲込む事に必死でした。

恐らくあの時のクッキーは、アンリ様に御出し出来る物では無かったと思います。

ですが、あの御方は──

『美味しい』

と、そう仰って下さいました。

クッキーと呼ぶには相応しく無い、パサパサとしたそれを、本当に美味しそうに召し上がって下さったのです。

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