《MUMEI》

あの日以来、僕は心から美味しいと、そう仰って頂ける御菓子を作りたい──そう思ってきました。

アンリ様に、喜んで頂きたい。

笑顔になって頂きたい。

その気持ちは、今も変わりません。

ですから、今もレシピとの奮闘が続いています。

それは決して、辛い事ではありません。

僕が辛いのは、あの御方が悲しまれる事。

あの御方が御遠慮なさる事。

あの御方が幸せになって下さるのなら、何でもして差し上げたい。

それが、僕の本望です。

さて、アンリ様を御呼びしましょうか──。

「──紅茶の支度が整いました。広間の方へどうぞ」

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