《MUMEI》

 草助が二人を相手している間、雛菊は残る独りに刃を向けていた。

「直ぐに立ち去れば見逃してやらんでもない」

 だが賊は引かない。

 華奢な手首を、糸も簡単に捻り上げる。

「‥っ」

 刹那、雛菊は横から蹴りを入れその腕を振り払う。

 そのまま後方に二、三度ばく転。

 再び刀を構えると、向かって来た刃を軽々と躱し薙払う。

「宿屋に火を点けたのは貴様か」

 返事はない。

「おい華郎ー、無事か?」 

「当たり前だ」

 雛菊は伏している男を見下ろして溜め息を吐くと、草助の後に続いた。

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