《MUMEI》

「じゃあ、行くわ」
「おー」

意外に乾いた口調で片手を上げた銀二に、笑顔で返す。永遠じゃない別れには涙なんて似合わない、なにより、俺らの関係はほんの少し距離が離れただけでは壊れたりしないって確信しているから。

見送る小さい背中は一度も振り返らなかった。俺もすぐにその場から離れた。
よくある映画みたいに、恋人が乗る飛行機を見送ったりしない。
そんなもの、何の意味も持たない。
俺があいつに用意しておくべき言葉は、さよならでなくおかえりなんだ。

ただ今は一瞬だけ、
このすれ違うだけの人間をつなぎ止めていた鎖を緩めるだけだ。

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