《MUMEI》

「何故?」
「何?」
「何故貴方は邪魔をするんです。黒花は穢れている、この世界には、白花しか要らないのに!」
黙り込んだと想えば突然に喚き始める白鷺
変わりすぎる様子に、殺鷹は深々しい溜息だ
「……物事を二面性でしか見られないものかな。キミは」
「当然です。ヒトが見る事が出来るのは常に表と裏。それ以外に何があると?」
「なら聞くが、白は清い色で黒は穢れた色。そう決めつけたのは一体誰なのだろうね」
「それは世の理です。誰が、ではなく元よりきめられている事」
どれ程言葉を交わしても進展する事を覚えない会話
長々とそればかりを続けたいと思う訳もなく、殺鷹は踵を返しその場を後に
途中一度振り返ると
「……君はもう少し冷静になってこの世界を見るべきなのかもしれないね。この世界が如何に狂っているのかを」
「殺鷹……」
「君が気付かない限り世界は落ちる。気付いてくれることを心から祈っているよ。ではね」
感情の籠らない笑みを白鷺へと向け、その場を辞した
ゆるり歩く事を始めながら今にふる白花を見
「……どうしてこんな風に歪んでしまったんだろうね。世界も、そして貴女も」
だれに言って向けるでもなく、殺鷹が一人呟けば
突然に、背後から福の裾を引かれる
小さな引きに向いて直れば
白い花を両の手一杯に掛けた少年が、殺鷹を見上げ笑みを浮かべていた
「……どうかしたのかい?」
唯笑うしかしない少年へ
殺鷹は片膝を土へと着け目線を合わせてやる
視線が重なるなり、少年は花を徐に頭上へと放り上げ
宙に散らばったソレらは、重力に引かれ次々下へと落ちていった
「白に染まるあなたも綺麗。でも」
花越しに殺鷹を眺めながら、彼の頬へと手を触れさせる
増えた瞬間、それまで穏やかに笑みを浮かべていた顔が、表情を失った
「……消えちゃえ。邪魔者の、黒の鳥」
感情の籠らない声の後、少年の姿は瞬間に消える後に残ったのは白花の花弁
一枚拾い上げてみれば、殺鷹の手の中で塵へと化し降り落ちていった
「……そんなに急かさなくてもいずれ消えるさ。私も、白鷺、貴女もね……」
だれに向けるでなく一人言に呟いて
土の上の白花を踏んで潰しながら
殺鷹は家路へと、着いたのだった……

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