《MUMEI》
再び説明
副長は一瞬黙ってから、すぐに口を開いた。

「実は、彼女がマボロシの声を聞いたというので連れてきました」

「え……?」

思わず羽田は声を出してしまった。
今の状況で羽田たちのことを説明するのは面倒だったのだろう。
副長は、そうだろう? という様な顔で羽田を見ている。
その言葉を聞いた隊長は疑わしそうに羽田へと視線を送る。

「マボロシの声を? 本当か?」

羽田は困って凜を振り返るが、凜はただ肩をすくめるだけだ。
たしかに何かの声を聞いた気はするが、それがマボロシの声なのかはわからない。
もしかすると、ただの空耳かもしれないのだ。

 羽田がどう答えようかと迷っていると、隊長が「本当か、と聞いているんだが」と低い声で言った。
相当機嫌が悪そうだ。
羽田は思わず頷いていた。

「……多分」

「多分だと?」

「いえ。たしかに彼女はマボロシが消える瞬間、声を聞いたらしいんです」

横から副長がフォローする。
すると隊長は一瞬視線だけを副長に向けると、すぐに羽田に戻した。

「……その声はなんと?」

真剣な表情で言う隊長に、羽田はさっき起こった出来事を説明した。
すると隊長は顎に手をあてて、考え込んでしまった。

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