《MUMEI》
求める温もり
「……ごめん若菜、大丈夫だから。教室戻れよ。」
樹はゆっくり若菜から手を離した。

「……サボっちゃおうか?」半月に象る目と、纖かな指先が樹に絡んだ。

「……戻れよ」
若菜の腰を持ち上げて一緒に立ち上がる。
「俺のせいで、若菜の評価は下げられない。」

「なんで、そういう言い方しか出来ないの……
 私は、樹と居たい!
……それだけ。他人を出す必要ないじゃない。樹はどうなの?」
しっかりとした口調。

若菜の両手を握る、耳元で樹は精一杯に囁く。
「……優しくしないで。」

若菜の唇が樹の首筋をなぞった。
樹は情けなく、震えた。

「拒否する」
ニッコリ、という表現が相応しい彼女の笑顔が言葉に強い意味を持たせている。

彼女の手を振り払うことが、彼女の為に違いないのに、伝わる体温から樹は離れることが出来なかった。

彼を引く、愛おしい人の後ろ姿を、いつまでも、見つめていたいと想っていた。

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