《MUMEI》

「最近、一人の時間が増えて……
ふと、愛知を思い出した。過去に俺にしたことは腹立たしかったよ、慰みの言葉一つ寄越さないしな。
……まあ、過去のことは今の言葉で許してやる。
安心した、お前が変わっていなくて。じゃあな。」

昭一郎は満足気に笑みを漏らして立ち上がろうとする。


「……あ、のさあ」

反射的に昭一郎を捕まえてしまったので何も思い浮かばない。


「帰れないじゃないか。」

欝陶しい表情をしているが逃げようとしない。
なんなんだこれ。

うわ、

昭一郎が、
可愛く見えてしまう……

お互いもう立派な三十路の加齢臭親父なのに、鼓動が止まない。

「いや、か、帰らなくてもいいんじゃないか?」

昭一郎を離したくない……




「少し前に国雄に会ってな……、失恋した。」

昭一郎は遠く懐かしむように目を伏せた。

そんなことを昭一郎に言わせてしまう国雄を、本気で殴り倒したい。

「なんでそんな大事なことを言わないんだ……」


「俺の前から姿を消したのはそっちだろう。」

昭一郎の話題は過去の話で俺が言いたいのは現在の事であるからして……会話で時差が生じている。


「お前の為に消えたんだ!
俺なんかよりマシな人間なんてそこらじゅうに居るんだ、一生分の苦しみを俺と共に葬ってくれれば……救いはあった。」

そうだよ。
幸せであったなら、


せめて、救われたんだ。

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