《MUMEI》

   哀しい夢を見た

追い掛けても捕まらない。握った右手は体ごと全て水に変換され、床に滴り落ちる。
覗き込むとたちまち
水溜まりは深紅に染まり、俺に向かってこう言うのだ

「アラタ、どうして助けてくれないの?」
水溜まりから顔が浮かび上がり、俺達は互いに恭しく唇を接触させる。

柔らかな感覚に身を任せる。息が出来ない、苦しい、ごめんなさい、
ごめんなさい、

「アラタ、愛してる」

何回も繰り返され麻痺させて、細胞が互いに融合していく。恍惚に沈む。

    黒い影

気付いた頃には遅い、
俺に絡み合う頭は黒い影に覆われて、柘榴のように壊され、消えてゆく、




そこで意識が舞い戻る。
硬いいつものベッドの上。

呼吸をする
夢で掴んだ手を探して、伸ばす指が宙を掻く
目覚めると案の定身体は興奮し反応していた

布団を覗いて、出ていた位置を確認した。
「汚い」
吐き捨てる。
自分が、気持ち悪い。

生も死も、神経にしてみれば無意識に受けた快感、刺激、生理的欲求にしかならないのだ。


惨めだ。今日はあの人との面会の日なのに。

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