《MUMEI》

「ラスト500球!!」


「…っはい!」


桐海蓮翔。


5歳の頃。


毎日毎日、地獄のような猛特訓を受けていた。


常に掌にはいくつも豆ができており、
腕や足……至る所に掠り傷があった。


幼稚園に通わせてもらうことさえ叶わなかった。


当然、俺にとって“友達”と言う存在はおらず、
夢のように思っていた。


口出しなんてすれば拳骨が飛んでくる。


ただ、ひたすらずっと……。


この環境に耐えていた。


だが、こんな厳しい練習をして、
いつまでも平気で居られるはずがない。


とある大会で、とうとう肘を怪我してしまった。


親父からは何度も責められ、
頼るものもない、
たった一人の俺にはどうしようもなかった。


この日。


初めて泣いた。


その涙が何を意味しているか分からなかった。


でも、ずっと泣いていれば、
少しは楽になれるような気がしたんだ。


球場の裏で一人、声を殺して泣いていた。

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