《MUMEI》

「言い忘れてたけどよ、お前、誰?」


「…え……?」


「あ、ごめんごめん!

俺も名乗って無かったよな!!」


そう言うと彼は、勢いよく息を吸い込むと、


「俺の名前は、滝澤颯馬っ!!

颯馬って呼んでな?」


大声でそう言った。


辺りは暗く、一通りも少ない今、
声を上げずとも十分聞き取れるのに……。


俺は、痛くなった耳に手を当てながら、


「俺は……桐海蓮翔です。」


彼とは対照的に消え入るような声で、
同じく自己紹介した。


「うん。
じゃあ蓮翔ちゃんな!」


颯馬は満足そうに俺のあだ名を命名すると、


「あ!
俺の名前、そのまんまじゃん!

何か良いのない?」


一瞬、しまった、という顔をしてから、
慌てて俺に尋ねて来た。


「じゃあ……颯ちゃん………?」


おどおどしながら見上げると、
全身で息をはいた。


颯馬がさっきよりも満足そうに、
嬉しそうに笑っていたからだ。


「っしゃ!決まり!!
二人だけの呼び名なっ!」


その言葉に、自然に笑が零れた。


「お!やっと笑ったな!!」


そう言って俺の頬をつつく颯ちゃんに、
心から感謝した。


そして、彼の特別になったのかな?
そう思うと、更に頬が緩むのだった。

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