《MUMEI》 「蓮翔ちゃん、家何処?」 「え……と。」 俺は自分の家の住所を口にした。 すると、 「おー! 俺ん家の近くじゃん!! 一緒に帰ろうぜ!」 俺を誘ってくれた。 この時の夜風はとても寒かったのを覚えている。 だけど、俺は全く寒くなかった。 心も身体も温かった。 颯ちゃんがいたから。 自分だって暗い道を歩くのは怖いくせに、 「蓮翔ちゃんが怖いから。」 なんて下手な嘘をついて俺の手を握ってくれて。 とても満ち足りた気分だった。 “人”って、こんなにも温かいんだな、 と初めて気付いた。 颯ちゃんの手を、初めてできた友達の手を、 いつまでも握っていたいと思った。 けれど、楽しい時間は本当に短い。 気付けばもう俺の家の前だった。 さようなら……。 そう言って手を放そうとしたのに、 逆に颯ちゃんは強く握り返してきた。 「行こうぜ。」 そう言って、 手を繋いだまま俺の家へ入ろうとする。 え? 何を考えているか分からなかった。 前へ |次へ |
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