《MUMEI》 吊される!広野たちが近づいて来たので、三郎は身構えた。 「何か?」 「三郎に用はねえ。俺は隊長に謝りに来たんだ」 麻美も警戒しながら広野を見た。 「先ほどは逆らい申し訳ありませんでした」 深々と頭を下げる広野に、麻美は少し安堵した。 「わかればいい」 「そこで、町に戻ってもこのことは隊長の胸の中にしまっておいてはもらえないでしょうか?」 「それはできない」麻美は即答した。 「え?」 「大勢の者が見ていたことだから、報告しないわけにはいかない。もちろん深く反省し、謝罪したことも言う」 「しかし…」 「下がりなさい」 広野は蒼白。仕方なく下がった。 「まずいな」仲間の一人が呟く。 「畜生、人が頭下げてんのにあの女」 「広野落ち着け」 その頃、義六は萬屋を説き伏せようとしていた。 「萬屋殿。広野は画策してるぜ」 萬屋は遠くから広野を見た。あちこち回っては何かひそひそ話をしている。 「萬屋殿。謀叛だ。どうする?」 萬屋は焦った。義六の勘が当たっていたら大変だ。 「あの人数に三郎一人では無理だ。でも俺なら大丈夫。姫を守りたいなら縄をほどくんだ」 「その手には乗らねえ」 義六は笑った。 「あ、萬屋殿もさては姫に文句があるんだな?」 「何だと?」 「図星か?」 そこへ麻美が三郎と一緒にやって来た。 「萬屋、吐いたか?」 「はい、どうやら仲間はあの五人だけのようです」 「萬屋。何この男の口車に騙されてるんだ情けない。もういい!」 麻美に叱られて萬屋は下を向いた。 「三郎。私の護衛はいいから、この男を尋問しなさい」 「はい!」 麻美は木に戻り、ゆっくりすわった。 義六がからかう。 「萬屋殿。一生懸命働いているのに怒鳴られて、姫を守ろうという気持ちが薄らいだろ?」 萬屋は無言。三郎は義六の襟首を掴んだ。 「くだらないことは言うな山賊」 「三郎殿。姫を一人にするな。広野は狙ってるぞ」 「黙れ」 だが……。 兵士二人が麻美に告げた。 「隊長、怪しい人影が見えました!」 「何?」 「十人はいます。山賊の一味ではないかと」 麻美が剣を持って立とうとした瞬間兵士二人が剣を掴む。 「何をしてる…あああ!」 背後から広野にどつかれ前のめりに倒れた。 「貴様!」 しかし多勢に無勢。あっという間に木の枝に両手首を縛り付けられ、吊し上げの態勢だ。さすがの麻美も慌てた。 「ばか、何をしてる、ほどきなさい」 爪先立ちになってようやく足が地面につく高さだ。麻美は叫んだ。 「今すぐほどいてくれたら上へは報告しない!」 ところがだれも動かない。それどころか無抵抗の麻美を見て、淫らな欲望を目に宿している。麻美は身じろぎした。 萬屋が立ち上がる。 「三郎、こいつを見張ってろ」 「はい」 萬屋が行った。三郎は汗だくだ。義六がしきりに説き伏せる。 「俺なら三十人くらい一人でやっつけられる。縄を解くんだ」 三郎は無言で義六と麻美を交互に見た。 麻美は萬屋の姿を見て、顔が明るくなった。 「萬屋殿!」 「呼び捨てから殿に昇格ですかい?」 「え?」 萬屋の様子がおかしい。麻美は本気で慌てた。 「違うんです。年上のあなたを名前で呼んだのは…」 「言い訳は聞きたくないですよお姫様」 萬屋に裏切られたら助からない。麻美は神妙な顔をした。 「萬屋殿。先ほどはいきなり怒鳴ったりして申し訳ありませんでした。この通りです」 吊されながら頭を下げる麻美に、萬屋は良心が痛んだ。 「おい、おまえら、暴力はいけねえ。言いたいことがあるならここで言うんだ」 「萬屋、何仕切ってんだよ」 広野に呼び捨てにされて、萬屋は刀を抜く構えをした。 「何だと?」 しかし次の瞬間後ろから頭を打たれ、からめ捕られてしまった。 「萬屋殿!」 叫ぶ麻美に広野が近づいて来た。 「麻美」 呼び捨てにされて、麻美は悔しさに震えた。 「謝れ」 「え?」 「謝れよ」 前へ |次へ |
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