《MUMEI》

「はぁ‥」

 草助は溜め息ばかり吐いている。

 自分が捕まっているからではない。

 あの姫の事が気掛かりでならないのだ。

(あいつ‥今頃どうしてんだろな‥)

 ふと、雛菊の表情が彼の脳裏に浮かんだ。

 真面目な表情であったり、笑顔であったり。

「──姫、か‥」

 高嶺の花とは、彼女の事をいうのだろう、と、草助は思う。

(あの簪──まだ持ってくれてっかな‥)

 刹那、戸の開く軋んだ音。

 見張りだ。

 草助は不審に思われぬよう、寝ている振りをした。

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