《MUMEI》

 程なくして、風鈴は雛菊に任務遂行を伝えに来た。


「他に何か御用件はございますか」

「いや、これで十分だ。──有り難う」

 雛菊は鍵を握り締め、地下牢へと下って行く。

(暗いな‥)

 このような中にあの男が閉じ込められているのだと思うと、居た堪れない思いがする。

(待っていろ‥草助──‥)

 姫の瞼の裏にあるのは、若人の悲しげな笑み。

「───────」

 階段を降りながら、雛菊は動悸がしていた。

 緊張の為だけではない。

 あの男を慕っているからなのである。

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