《MUMEI》
恥辱
麻美は素直になるしかなかった。
木に吊されて大勢の男たちに囲まれている。
しかも先ほど剣を喉に当てがい、参ったさせた広野が目の前にいる。
ここで殺されてしまったら犬死にだ。
「広野殿、待ってください」
「俺待つの嫌いなんだ」
広野が枝の切れ端を拾った。
「待ちなさい。あなたのしたことは黙ってるから」
「うるせえ」
「え?」
広野は冷酷な目で皆を見回した。
「みんな覚悟はできてるんだ。ここまでやってしまったらもう遅い。おめえを生きて返したら皆縛り首だ」
「違う違う、そんなことにはならない!」
麻美は必死に首を横に振った。
「全部私の胸にしまいますから、ほどいてください」
「嘘つけ」
広野が枝の切れ端で麻美のおなかを一撃!
「あああ!」
次はお尻に思いきり行った。
「ぎゃあああ!」
麻美は真っ赤な顔をして叫んだ。
「わかったからやめて、許して!」
意地を張って傷だらけにされても意味がない。
「痛い、耐えられません、やめてください」
「ほう、結構かわいいところあるじゃねえか」
広野は勝ち誇って益々調子に乗った。
「麻美」
「はい」
「ほどいてほしいか?」
「ほどいてください」
「わかった、お望み通りほどいてやる」
広野は着物の帯をほどいた。
「何をするか!」
麻美はもがいたが広野のなすがままだ。あっさり脱がされてしまった。
兵士たちに全裸を晒したまま手で隠すこともできない。これほどひどい仕打ちは生まれて初めてだ。
敵は内部にいる。
こんな兵法の初歩を麻美は忘れていた。
山賊にではなく兵士たちにこんな仕打ちを受けようとは。
「へへへ、いいながめだぜ」
広野は容赦なく麻美の裸を触りまくった。
「やめてください!」
無念。麻美はきつく目を閉じて悔しがった。
「麻美。俺が受けた屈辱はこんなもんじゃねえぞ」
広野は仲間二人に命じた。
「おい、両脚を押さえてろ」
二人は麻美の両脚を持って広げた。
「何をする?」
不安顔の麻美。広野が刀を抜いたので恐怖に変わった。
「え?」
周りの者も焦った。
「おい、広野、斬るのはやめろよ」
「この女次第だ」
そう言うと広野は、麻美の股に刀を当てた。
「そんな…」
まさかこれほどの恥辱を味わおうとは。
罵倒したかったが、謝るしかなかった。
「許してください」
「ほうら、すぱっと切ってやろうか?」
「それだけはやめて」麻美は本気で哀願した。
邪悪な広野は、強気の麻美が弱気な表情で命乞いするのを見て、残酷な笑みを浮かべた。
「三郎!」
端では義六が三郎を怒鳴る。三郎は一人でこの人数に立ち向かう自信はなかった。
広野がさらに迫る。
「ほうら、動くと危ないぞう」
今度は刃先で突く真似をして、麻美を慌てさせた。
「危ないからやめて」
「突っ込んでやろうか?」
刃先が触れる。
「あっ…」
麻美は少しも動けず、ただ許してくれるのを待つしかなかった。
「お願いだから、やめて」
「かわいいじゃねえか、へへへ…がっ!」
広野が倒れた。義六だ。皆慌てたが義六は枝で目の前の男の脳天を叩くとすぐに水平にないで後ろから来た三人を倒した。
麻美の脚を押さえていた二人も刀を抜こうとしたが義六のほうが速い。
「ぎゃあああ!」
顔面を殴打されて倒れた。
「隊長!」
だれか自分をほどいてくれる若い兵士がいる。
「三郎…」
麻美は三郎の顔を見ると気を失ってしまった。
三郎は着物や履き物を拾い、愛しの麻美を裸のまま肩に担ぐと、逃走した。
兵士たちも義六に手こずっていたが、だれかが後ろから義六の肩を斬った。
「あああ!」
倒れ込む義六。しかし麻美を担いで逃げる三郎が目に入った。
「まずい、逃がすな!」
「捕まえろ!」
大勢で追いかけようとすると、上からバラバラと木の枝が落ちて来た。
「何だ何だ?」
皆上を見た。
「……」
総唖然。
「な、何だあれは?」

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