《MUMEI》

 あの時は、只従う他なかった。

 だが今、この若人はそれを後悔している。

(あいつ‥いつ追っかけてくんだろな──)

 考えるのはその事ばかり。

 雛菊が、いつ追いかけて来てくれるのか。

 気掛かりなのは、只それだけ。

 ふと前に目を向けると、雛菊と同い年位と見える小侍が歩いていた。

(あいつも‥旅してんのかな‥)

 何はともあれ、あの姫は今、ここにはいない。

(捕まってれば良かったなぁ‥)

 牢獄ではあるが、あの場所は雛菊の近くだったのだ。

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