《MUMEI》
「ありえないありえない…」
眼を醒ましてまず吐いた台詞。
小学生の時初恋は経験してたけど中学に入ってからは部活に夢中になって恋愛なんてドラマの世界になっていた。
全くこんな夢…
とんだ妄想だ。
気が抜けて頭がおかしくなったんだろうか?
いや、欲求不満?
いやいや、私は女だ。そんな事あるわけなかろう。
時計を見るとまだ5時。
窓から射す朝日が気持ちいい。
昨日までなら朝練で当たり前の様に起きていた時間。
しかし今日からは朝っぱら。
5時は起きるには早すぎる時間に変わった。
トイレに向かうとキッチンにお母さんの姿。
「あら、おはよう、早いのね」
「おはよう、お母さんも早いじゃん、今日から6時起きにするって言ってたくせに」
「ふふ、つい習慣でね、あんたが中学入ってから毎日5時起きしてたんだもの今更かえらんないわ」
感謝感謝だ。
口に出すのは恥ずかしいから言わないけど。
部活は私一人で頑張ってきた訳じゃなかった。お母さんも昨日まで一緒に頑張ってくれていたんだ。
「…新聞まだ?」
「まだ、お願いしていい?」
「は〜い」
私は込み上がる想いを唇を噛みしめて堪えながら玄関に向かう。
玄関扉を開けて、朝の空気を吸い込んで。
「…………」
「…………」
「おはようございます」
玄関前に、男が立っていた。
男は私におはようございますって……
そして男は立ち去った。
「え?ええ??」
夢の中の男にあまりにもそっくりでびっくりして!!
「なんで……」
しかもその男は唇にクリームらしきものをつけながら、片手に小さくなったパンを持っていた。
「まさか!!」
私は慌てて道路に出る。すでに男の姿はない。
犬?
昨日の犬?
まさかクリームパンの恩返しに夢に出てきて慰めてくれたの?
それでも足りなくて会いにまできたの?
いやいやいやいやいやいやいやいや!!
ありえないありえないありえない!!
私は頭を左右に振り自分の愚かな妄想に深くため息をついた。
ポストから新聞を抜く。
「また寝るか…」
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