《MUMEI》

「どうした、蟠りがあるようだな‥雛菊」

「‥兄上‥」

 雛菊が伏せていた顔を上げると、そこには見慣れた兄の顔。

 彼の名は菖蒲。

 雛菊は彼を慕い、同時に恐れてもいる。

「‥兄上も‥もう御食事を済まされたのですか」

「‥ぁぁ」

 表情を一切変えない菖蒲に、雛菊はどう接するべきであるのかが未だに分からない。

「‥あの男を逃がしたのはお前か」

「‥!」

 雛菊は背筋が凍る思いだった。

(‥兄上には‥気付かれていたか‥)

「‥余程の恩人なのだな、その草助とやらは」

「‥ぇ」

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