《MUMEI》

「蓮翔ちゃんはアンタの子だ。

だけどなあ、一人の人間には変わりないだろ?」


「な…にが言いたい?」


こんなにうろたえた親父を見るのは初めてだ。


「人ってのはな、
自分だけにしかない一つの道を持ってるんだ。」


「颯ちゃん……?」


「“人生”って名の道だよ。

それは自分で切り開くものだ。

幼い頃は誰かからの支えが必要だけどな。

その道を歩き始めたばかりなんだから。

でも……。」


颯ちゃんは真剣な眼差しを父さんに向けた。


「でもアンタは支え過ぎだ。」


「だから何を言いたいんだ?」


「アンタは……暴力まで振るってコイツを、
蓮翔ちゃんを………。

自分の都合だけで押さえ付けていいのか!!」


「………。」


その言葉に、親父は黙ってしまったんだ。


幼いながらも、考えをしっかりと持った颯ちゃんに、
恐れをなしたのかも知れない。


「行こうぜ。」


「え……?」


颯ちゃんは言いたいことを全て言うと、
俺の手を引いて何処かへ行こうとした。

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