《MUMEI》
気持ち 〈私〉
椎名くんが無事でよかった。
擦り傷だけで済んで、本当によかった。


私の前を歩く『私』の―…椎名くんの背中を見つめながら、
心から、そう思った。


―…枝の折れる音がしたときは、心臓が止まるかと思った。


ゴジラは、ネコを必死に追ってくれたけど―…



私は何故か、あのネコを捕まえたらいけない気がしていた。


―…あの女の子の笑顔を見たときから。


…こんなこと、椎名くんに言ったら怒るかな…??



でも、やっぱり『捕まえたらだめ』って気持ちが強い。



「椎名く―…」



私が口を開こうとしたとき、



「なあ蓬田、」



椎名くんがふいに振り向いた。



ドキッとして口をつぐむ。



「な、なに??」


「あの、さ、―…あのネコのこと―…」



椎名くんは、迷うように視線を泳がせたあと、
私の目をしっかりと見つめて、言った。



「…あのネコ、捕まえるの待とう」


「―………!!」



私が驚いて黙っていると、



「いや、あの…おれから言い出したことなのに、こんなこと言うの変だけど…
なんか、あのネコは捕まえちゃいけない気がして、」



言い訳するように早口で言う椎名くんを見て、笑ってしまった。



「ううん!―…実は、私もそんな気がしてたの。
…別な道、探そう」



私がそう言うと、椎名くんはほっとしたように微笑んだ。



「おう。…ありがとな」



…そうだよね。

椎名くんは、優しい。




―…椎名くんも同じこと考えてたんだ。



そう思うとすごく嬉しくて、1人でにやけてしまった。

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