《MUMEI》

「珈琲の一ツくらいは出してみろよ……」

少し、はにかんだように笑う昭一郎を見られて、やっとつっかえていた小骨がとれた。

昭一郎も俺の底を尽きてきた引き止めの理由にかれこれ一ヶ月近く付き合ってくれていた。






「今日は……荷物が届くからさ。うん、まだ居てくれると助かるし。」

荷物というのは、昭一郎の引越し荷物だったり……。


「ああ、そうだ。愛知が鍵を渡さないで置いていくから仕事クビになった。」

昭一郎は前触れもなく爆弾発言してくれる。


「じゃ、じゃあ、探さないとな。」

口元がにやけてきてしまう。
だって、普通に言えば良かったんだ、
仕事があるから今日は家に帰るとか……さ。
それを黙々と一ヶ月近く家事をしてくれたりして。


「そうだな。」


「そう、だ、
家の掃除がよく行き届いてるなあ?」


「愛知が仕事以外出来ないだけなんだろ。」

欠点を刔ってくる。


「昭一郎が居てくれないと……あ、いや、居てくれると助かるなあ!うん!」

流石にもう理由探しがキツくなってきた……。


「助けて欲しいか?……一人は怖いものなあ。」

昭一郎が言うと妙に説得力が生まれる。


「家のこと、してくれるか……?俺、昭一郎のために働くから。家事してくれた分の給料も出す。」


「しょうがない、寂しがりの愛知の傍にいてやるよ。親が仕事で帰りが遅くていつも一人で帰るのが苦痛だったんだろ?」

昭一郎……いつも優位だ。


「そうだった。」

懐かしい。
一度昭一郎に話したことがある。


「……泣くなよ」


「最近涙脆くて……」


「退化してないか?」


「昭一郎といると、若くなれる気がする。」


「褒めてない。」


「……今日お赤飯炊いてくれる?」

なんて。こっそり、昭一郎の歓迎会したり……
ケーキを1ホール、男二人で消せるか心配だ。

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