《MUMEI》

「おはおうごはいまふ」



「おはよう…



ございます…」




目の前に、昨日の男。





昨日と同じ時間に外に出たらまた、



居た。



しかも今度は食いかけの魚肉ソーセージを掴んでいる。


もぐもぐと動く口元。



よれよれの白いTシャツ……。




私の心臓は試合が始まる前よりも酷く煩く鳴り響いていた。


そして男は立ち去った……


いや…



「あの〜、」


「あ、あ、あ……」


私は男のTシャツを咄嗟に掴んでしまったのだ。


ばっと離す。男は当然ながら振りかえった。


「な、何か?」

私は恥ずかしくて男を見れない。

「あの〜…」


また男の声。

そりゃそうだ、いきなり掴まれたんだから。

いや、でもあんた犬?
昨日の犬?


聞いた瞬間ボフッと犬になるの?



それとも偶然?


ああ、わからない。


でもなんか言わなきゃ言わなきゃ…


「…試合、負けたんです」

な〜に〜いっとんじゃ我!!


阿呆馬鹿間抜けお前の母ちゃんでべそだっけ?


ああ、もう…
死にたい。


「部活?俺も負けちゃってさ〜、終わっちゃったよ…」

「え?」


「君三年?」


「…はい」


「俺も三年、三中のね、俺はサッカー部」

「………私は、
ソフト部……」


「そうなんだ、じゃあうちの中学で試合してたんだ、俺は君の学校でしてた…
あ、ここ一中地区だよね?」



男の笑顔が朝日に映えて、なんか、なんか……


キュン…とした。




ニキビだらけで痩せっぽちで、でも私より背が高くてそれでそれで……



男はじゃあと言って去って行った。



私は立ち尽くす……



犬じゃなかった?
いや、犬??




どっちにしても、この胸の高鳴りは……


久しぶりに感じた恋心。



私は恋に落ちた。




犬かもしれない、あの男に……。

前へ |次へ

作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ

携帯小説の
(C)無銘文庫